2026.02.24

木力NOTE

木力NOTE ―木で未来をつくる人たちへ 第12回

第12回 木で災害に強い社会をつくる「ウッドトランスフォームシステム」 

日本木材青壮年団体連合会(日本木青連)令和7年度会長の長谷川泰治です。「木力NOTE」第12回は、ウッドトランスフォームシステムについてご紹介します。

令和7年度の日本木青連では、広域連携委員会の活動の一環として、ウッドトランスフォームシステムの商品開発に取り組んでいます。現在進めているのは二つのプロジェクトです。一つは、後述するウッドトランスフォームシステム協会と共同開発している新商品「ウッドトランスポーター」。もう一つは、建築家・坂茂氏率いる坂茂建築設計事務所と連携した新たなプロダクトの開発です。いずれも、木の力を防災の現場に届け、災害に強い社会を築いていくための挑戦です。

<ウッドトランスフォームシステムのロゴ>

 そもそも、ウッドトランスフォームシステムとは何か。それは、防災分野における木材利用の新たな可能性を示す考え方であり、仕組みです。災害が発生すると、私たちの暮らしは一変します。移動、睡眠、衛生、プライバシーなど、日常では当たり前だった行動が、大きく制約される状況に置かれます。そうした非常時の影響を和らげるために、家庭、企業、行政それぞれが「備え」を進めています。ウッドトランスフォームシステムは、そこに着目しました。平常時に使っているものが、災害時には形や用途を変え、被災された方々の厳しい状況を支える。さらに、その素材として木材を選ぶことで、「軽くて丈夫」「加工しやすい」「人にやさしい」といった木材本来の特性を最大限に活かす。この発想から生まれた防災システムが、ウッドトランスフォームシステムです。実際の災害データを復興庁の報告書で見ると、災害関連死が社会的に大きく注目されるようになったのは、東日本大震災以降です。1都9県で確認された震災関連死者数は、合計3,739人1)。そのうち約33%の原因が、「避難所等における生活の肉体的・精神的疲労」とされています2)。冷たい床に毛布一枚、不衛生な環境、断水によるトイレ不安から水分摂取を控える。こうした過酷な避難所生活が、命にまで影響を及ぼしている現実があります。これらは、「仕方がないこと」ではなく、「備えによって緩和できること」であるはずです。

そして、木材にはもう一つの大きな力があります。木に触れ、その香りを感じることは、人のストレスを軽減し、心身をリラックスさせる効果をもたらします。これもまた、木材が持つ大きな特長の一つです。ウッドトランスフォームシステムによって、被災時であっても木のぬくもりを感じながら過ごせる環境をつくることができれば、避難所生活の精神的負担を和らげ、災害関連死という深刻な問題の解決に少しでも貢献していけるのではないでしょうか。防災は、命を守る仕組みであると同時に、人の尊厳を守る取り組みでもあります。木の力を活かし、平常時から非常時へと姿を変えて支える。ウッドトランスフォームシステムは、そんな新しい防災のかたちを社会に提案していきます。

ここで、ウッドトランスフォームシステムのこれまでの歩みをご紹介します。

ウッドトランスフォームシステムは、「ウッドトランスフォームプロジェクト」として、日本木青連の中でスタートしました。原点は、平成27年に大阪木材青年経営者協議会(日本木青連所属)と一般社団法人大阪府木材連合会などが開発した、「フェンスが応急仮設小屋へと変形する」プロトタイプです。

翌平成28年、日本木青連防災対策委員会はこの取り組みを継承・発展させ、「地域防災」と「木材利用」という二つの社会課題を同時に解決することを目指して、ウッドトランスフォームプロジェクトを本格的に始動させました。その矢先、同年4月に熊本地震が発生します。日本木青連は、すでに存在していたこのプロトタイプを、実際に被災地で役立てることを決断しました。熊本県大津町人権啓発福祉センターへ移設された木造ユニットは、避難者のプライバシーを守り、精神的な負担を和らげる役割を果たし、多くの被災者の方々から感謝の声をいただきました。

<平成28年のウッドトランスフォームプロジェクト>

その後、平成29年には広島と東京の2か所で展示イベントを開催し、木材関係者だけでなく、行政や自治体の防災担当者など、多くの方々に実物をご覧いただく機会となりました。展示を通じて特に高く評価されたのは、「備蓄スペースが不要であること」「運搬を必要とせず即時に使えること」「木質素材ならではの軽さと加工のしやすさ」、そして「木が持つストレス軽減・リラックス効果」でした。

こうした手応えを受け、日本木青連はこの考え方をさらに広げていきます。多様な木造の被災者支援システムの可能性を探るため、平成30年、全国から広くアイデアを募るコンペティションを開催することにしました。このタイミングで、名称も「ウッドトランスフォームシステム」と改め、「平常時にはフェンスやベンチ、家具、什器などとして日常に溶け込み、災害時には変形することで避難所生活や復旧活動を支える木造のシステム製品」と定義しました。

コンペティションは、平成30年度に第1回、翌令和元年度に第2回を開催しました。個人、団体、法人を問わず広く応募を受け付け、「木材を有効に活用していること」「平常時・災害時の双方で役立つこと」「その場にある材料と工具で対応できること」を必須条件として審査を行いました。第1回は214作品、第2回は168作品と、いずれも多くの応募が寄せられ、審査会では「実際の災害現場で本当に役立つか」という視点から、活発な議論が交わされました。

その議論を通じて浮かび上がってきたのは、これまでの防災支援では十分に意識されてこなかった視点です。育児をする親の立場、そしてペットとともに避難するという現実。また、ジュニア部門を含めた幅広い世代の参加により、応募者一人ひとりが防災について考え、学ぶ機会となり、この取り組み自体が防災意識を高める場としても高く評価されました。

<ウッドトランスフォームシステムコンペティションの開催>

そして令和2年度から、ウッドトランスフォームシステムはアイデアから商品へ、商品化に向けた次の段階へと進みます。避難場所として学校施設が使われるケースが多いこと、また過去のコンペティションで学校備品に関する提案が数多く寄せられていたことから、「学校備品」をテーマに、日本木青連と2社のパートナー企業が連携して開発を進めました。その結果、令和2年3月、帝国器材株式会社から「Transform table」、株式会社エバニューから「Nest box」の2つの商品がリリースされました。「Transform table」は、平常時は学校給食室や多目的室で使われるテーブルとして、非常時には人が集い語らうソーシャルスペースへと姿を変えます。一方の「Nest box」は、平常時は跳び箱として使われ、非常時にはベビーベッドへと変形する製品です。日常の延長線上に防災がある。そんな思想が、具体的なかたちとして実装されました。

<帝国器材様開発のTransform table>
<株式会社エバニュー様開発のNest box>

その後も進化は続き、令和5年には、設計事務所のReegle株式会社が開発した「ジラーフユニット」が新たに加わりました。通常時は内装壁やベンチとして空間を構成し、災害時には木製ブースとして活用できる製品です。

また、これらの商品を実際の現場に届ける寄贈プロジェクトも、日本木青連の有志によって始まりました。宮城、福島、茨城、東京、福岡、熊本の各地で「Nest box」が地元の小学校へ寄贈され、跳び箱という本来の用途に加え、防災教育や避難訓練でのデモンストレーションにも活用できると、大変喜ばれています。さらに、令和5年の能登半島沖地震の際には、初期のウッドトランスフォームによる応急仮設小屋が被災地へ寄贈され、現地で被災者の方々に役立てていただきました。構想が現場で力を発揮するその瞬間を、私たちは幾度となく目にしてきました。

こうした取り組みを通じて、ウッドトランスフォームシステムの活動は、日本木青連の枠を超えて広がりを見せるようになります。より多様な企業や団体と連携し、発展的に取り組みを進めていくため、令和7年5月には「ウッドトランスフォームシステム協会」が設立されました。同協会は「木の防災」をキーワードに、ウッドトランスフォームシステム商品の開発・普及啓発を進めるとともに、審査・認証業務や、災害時の被災地支援にも取り組んでいく予定です。活動にご関心をお持ちの方や、入会をご検討されている方は、ぜひ以下のページをご覧ください。

【ウッドトランスフォームシステム協会WEBページ】
https://woodtransform.jp

平常時にも災害時にも有効に活用できるウッドトランスフォームシステムが、街のさまざまな場所に導入されていけば、特別な備蓄スペースを必要としないという利点にとどまらず、都市景観の木質化という新たな価値も生み出していくでしょう。日本木青連は、今後もウッドトランスフォームシステム協会と連携しながら、商品化と普及を着実に進め、災害に強く、木材を多用した持続可能で豊かな循環型社会の実現を目指していきます。

<令和6年の能登半島地震においてもウッドトランスフォームシステムを寄贈しました>

引用文献
1)  復興庁「東日本大震災における震災関連死の死者数(令和元年9月30 日現在調査結果)」
https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20191227_kanrenshi.pdf 
(取得日:令和元年12月27 日)

2) 復興庁 震災関連死に関する検討会「東日本大震災における震災関連死に関する報告」平成24年8月21日
https://www.reconstruction.go.jp/topics/20120821_shinsaikanrenshihoukoku.pdf
(取得日:令和元年12月27 日)

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