2025.12.01
宮本義昭氏コラム
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第10回
生産性向上~林業 10年後の素材生産
はじめに
素材生産に関しては、日本国内でも林業先進国のオーストリア林業並、もしくは以上の生産性を上げられている事業者の方がいらっしゃいます。例えば、木青連の会員でもある岩手県の柴田産業さんは有名ですね。
今回は既存の技術にとらわれず、10年後に実現していたら良いと思われるテクノロジーに関して考察してみます。
生産性向上の前に考慮すべきこと:安全性
日本の林業はニュージーランドの5~18倍も労働死亡災害が多く、国内の他産業と比較しても平均の10倍も発生しています。この点に関しては林野庁、都道府県、区市町村、林業事業体が様々な取組をしているにも関わらず、いまだに他国、他産業と大きな差があります。

現在、日本では、とりわけ、地方では人手不足が深刻で、求人広告を出しても全く効果が無く、途方に暮れている事業者の方も多くおられます。
そんな中でこれだけ労働死亡災害が多いようでは今後の林業の担い手を採用するのは不可能であり、持続可能ではありません。私の住むエリアでも若い人から「こんな給料で大変、かつ、危険なら林業を辞めて、コンビニの店長になった方が良い。」という声も聞こえてきます。生産性向上の前に安全性に関して考えておく必要があります。
ニュージーランドと比較して日本の林業は安全性に関して何が違うのか、
一つ目は、間伐時の高度な伐倒技術が必要な仕事が多いからではないかと私は推定しています。具体的なケースを見ると「かかり木」「あびせ倒し」など間伐で発生しそうな単語が出てきます。安全性の観点からも間伐をせず、疎植×コンテナ大苗×早生樹やエリートツリー×成長促進剤により、低コスト造林を推進するのが良いと思います。また、ニュージーランドのha当たりの植栽本数は800本で、現在、600本まで減らそうとされています。日本でも600本まで下限値を下げてはどうでしょうか?とにかく日本は造林保育に手間をかけ過ぎです。こんな採算の取れないことをやっている国は日本だけでしょう。また、人工林で30年を超える伐期設定をしている国も少なくとも温帯地域では日本以外はありません。
二つ目は、基本的なポリシーに沿って、ルールやインフラが整備されていることの違いと思われます。どういうことかといえば、ニュージーランドでは「地面に立つな、重機に乗れ!」、「木に手で触るな!」といった原則に従ってルール、林業専用道などのインフラ、林業機械が設計・開発されています。生身の人間が森林に入っていくのは危険ですし、しかも、チェーンソーや草刈り機など危険な機械を持って仕事をする限り他国の林業との大きな労働死亡災害率の差はいつまでたっても縮小しないのではないかと思います。森林に重機で入れるように尾根側(または山側)に林業専用道は設置するのを基本としてはどうでしょうか?
造林保育でバラまいている補助金を林業専用道の開設補助金にシフトし、林業可能な傾斜地の限界を決めて、ウインチアシスト型の林業機械を導入すれば、かなり労働死亡災害は減らせるでしょう。安全性抜きに今後の日本の林業は成立しません。
・10年後のテクノロジーを妄想してみる
日本は毎年佐賀県の人口と匹敵する人口が減少しており、非連続な生産性向上は必須です。また地球温暖化対策や日本のエネルギー自給率向上の観点からも更なる日本の林業や木材産業の生産増加は求められていると思います。
実際に三菱総研 プラチナ構想ネットワークから日本政府に①木造都市:9階建て以下の建物は木造を必須とする、②バイオマス化学:化石燃料由来ではなく、木質由来に化学産業を転換する、などが提案されています。
テクノロジーの観点ではディープラーニングラーニングのような機械学習技術により、例えば樹種の自動判定ができるようになったり、生成AIによりインターネット上の知識やコンテンツを参照して適切な回答をしてくれるようになったり、とても便利な時代になってきました。またトラックや自動車の自動運転、林業機械も遠隔操作や自動運転に対応した製品が出てきました。
こうしたテクノロジーの進化と理想的な業務フローを掛け合わせると下記の様なテクノロジーが実現しているとかなり生産性が向上するのではないかと思います。
① 路網開設
- (ア) クラウド上の森林マップで施業地と路網の始点と終点を指定するとどこに路網を設置すればよいか教えてくれる(既に住友林業のソフトウエアで実現)
- (イ) 上記で作成した路網設置データはクラウドから路網開設重機に転送される。
- (ウ) 路網設置重機にキャビンは無く、遠隔操作もしくは自動運転で稼働させることができます。前方にはハーベスターヘッドが、後方にはバケットがあります。つまり、前後のダブルアームシステムとなっています。前方のハーベスターヘッドで先行伐倒~造材を行い、後方のバケットで道を開設していきます。先行伐倒が終わったら、180度旋回してバケットが前方になるようにします。
② 伐倒~集材
- (ア) 既に下記の様に松本システムエンジニアリング株式会社からシンラプトルⅡという製品が販売されています。キャビンは無く、遠隔操作か自動運転で操作します。

- (イ) この製品の場合、ウインチアシストのワイヤーを自動設置できれば、現地に人を配置する必要が無くなります。
③ 造材~搬出
- (ア) 造材はハーベスターで行いますが、キャビンレスで遠隔操作か自動運転に対応した自動運転ハーベスターが必要でしょう。
- (イ) 搬出は林業専用道を前提とし、箱車自動運転トラックに直接ハーベスター造材しながら、丸太、枝葉、タンコロ、小径木、ウラッポを全て積み込みます。オーストリア林業のように造材歩留りゼロをめざします。
- (ウ) 箱車自動運転トラックは施業地で造材が開始されるとコンテナ大苗輸送パレットに植栽してあるパレットを苗木生産場で積み込んでもらいます。パレットの中心には鉄パイプが垂直に設置してあり、その先端には輪状のワイヤーが取り付けてあります。ハーベスターやクレーンなどで容易に引っ掛けて運搬できるようになっています。コンテナ大苗輸送パレットを積み込んだトラックは現地に向かいハーベスターにコンテナ大苗輸送バレットを下ろしてもらいます。また造材=積込み中に次回の搬出予定データをハーベスターから取得します。
- (エ) Einride社の木材自動運転運搬トラック(米国で公道走行許可を取得)

- (オ) Einride社の自動運転トラック(Pod)3台を一人で遠隔運転している。因みにEinride社は上場の予定もあるようです。

④ 主伐再造林
- (ア) 施業地にある様々な機械への充電は専用の自動運転充電器が担います。
- (イ) この充電器の上部にはドローン着陸ポートがあり、ポートのドローンへの充電を自動で実施できます。
- (ウ) ドローンは事前に施業地のマップ情報、植栽位置情報、路網位置情報、などをクラウドから受け取っています。その情報を元にコンテナ大苗輸送パレットから1本ずつ取り出して、植栽位置まで運びます。
- (エ) 穿孔植栽機は地面に植付用の穴を開けて(穿孔)、ドローンが運んできたコンテナ大苗を植付します。ウインチアシスト機能が付いており傾斜の厳しい施業地でも施業可能です。
⑤ 植付後の蔓植物繁茂の監視と除去
- (ア) 1人乗りEVを改造した自動運転充電器の屋根に蔓植物監視ドローンポートが設置されており、監視対象森林まで自動運転で移動、森林内部の蔓植物の繁茂状況を定期的に監視し、植栽木に絡んでいる蔓があればドローンが蔓を除去します。除去後再度絡む可能性が高いので定期的に監視を行います。
- (イ) あまりにも繁茂が酷い森林は除草剤散布ドローンで除草剤を散布します。
⑥ 木材コンビナート
- (ア) 製材、合板、集成材、CLT、プレカット、製紙、化学工場が集積した木材コンビナートに箱車自動運転トラックが到着したら、自動仕分け機により検尺と仕分けを行い結果はクラウドにアップロードします。どのトラックがいつ搬出してきたか記録し、事前登録された施業地とトラック、施業地と施業者の紐づけを頼りに自動的に支払い業務を行います。これにより市場通しなら3回行っていた検尺や仕分けは1回の自動仕分けとなりますし、経理業務も無くすことができます。
- (イ) 各工場から排出される木皮、端材、黒液、などは全て化学工場へ回し、全ての木質バイオマスを漏れなく使います。また、化学工場→製紙・合板→その他工場へ熱のカスケード利用を、各工場で発生する木質由来の水も各工場でカスケード利用を行い、余剰分は水電解し、水素を得ます。水も熱も無駄にしません。
⑦ エネルギー供給と通信
- (ア) エネルギー供給は木材コンビナートから水素+酸素ガスフォルダーを行きの空の箱車自動運転トラックに積み込み、施業地の自動運転充電器にセットします。自動運転充電器は燃料電池発電を行い、ハイパワー蓄電池に充電します。ここから各機械に短時間で充電を行います。弊社調べでは世界最短時間充電が可能なのは堤水素研究所のプロトン電池「やぶさめ」です。最短で1.2秒充電できた記録もあります。燃料電池からはゆっくり充電し、機械に放電する時は短時間で放電します。全ての施業地にある機械は電化されており、化石燃料は一切使いません。

*堤水素研究所製のプロトン電池「やぶさめ」、最短1.2秒充電もしくは放電
-40~80℃の広い温度帯で常温稼働、100万回充放電で劣化無し、製品化済みで現在サンプル出荷中
- (イ) 通信は施業地内の通信はWiFiやWiFi Halow、施業地外との通信はスターリンク、HAPSなどの衛星系通信を活用します。
⑧ オペレーションのイメージ
- (ア) 林業エンジニアAは自宅もしくは事務所から4現場の機械を監視する。必要に応じて遠隔操作により自動運転機械のサポートを行います。
- (イ) 林業エンジニアBは毎日4現場を巡回し、ハーベスターのソーチェーンの入れ替え、グリス挿し、目視による異常確認を行います。
- (ウ) 2名で4現場同時作業のイメージです。他に蔓監視森林からのアラーム対応も行います。
最後に
今回は現在の世の中のテクノロジーの進展を俯瞰した場合の10年後可能と思われる木材産業(主に林業)の生産性向上がどこまでできるのか考えてみました。
しかし、生産性向上の前に重要な事は安全性です。今の日本林業の様に国内のどの産業と比較しても突出して労働死亡災害率が高い、他国の林業と比べても突出して労働死亡災害率が高い、という事を解決することが前提です。
今のままの林業のやり方では日本の林業の未来は無いと思います。
また、AI、DX、IT、自動化、遠隔運転、など様々なバズワードが飛び交っていますが、これらに安易に傾倒し過ぎるのもよくありません。今の林業に必要なことは森林の集約化、森林管理の効率化、手間かけ過ぎ造林保育からの脱却、必要とされている樹種の植栽(製紙用、化学要はユーカリ、構造材はコウヨウザン)、林業専用道の充実、・・・など本コラム以前に取り上げたことの解決が必要です。
以上、ご関心あれば下記までご連絡下さい。
宮本義昭:メールアドレス:ym00876216@gmail.com
(過去のコラム)
第一回:人手不足対策、地域の空き家問題対策、リフォーム事業拡大
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第1回 – 日本木材青壮年団体連合会
・海外人材紹介と定着サービス:フューチャーデザインラボ社のご紹介
第二回:少子化問題と木材産業の成長
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第2回 – 日本木材青壮年団体連合会
・中堅中小企業の売上利益拡大を支援:Revitalize社のご紹介
第三回:リプレイス大作戦その1~石炭の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第3回 – 日本木材青壮年団体連合会
・林業コンサルティング会社:KOSO社のご紹介
第四回:リプレイス大作戦その2~外材の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第4回 – 日本木材青壮年団体連合会
第五回:リプレイス大作戦その3~天然ガスと石油の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第5回 – 日本木材青壮年団体連合会
第六回:リプレイス大作戦その4~外材、化石燃料以外の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第6回 – 日本木材青壮年団体連合会
第七回:生産性向上~林業 育林コストの大幅な削減
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第7回 – 日本木材青壮年団体連合会
第八回:生産性向上~林業 森林所有権の集約
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第8回 – 日本木材青壮年団体連合会
第九回:生産性向上~林業 10年後のあるべき森林管理をめざして
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第9回 – 日本木材青壮年団体連合会
(所属企業、団体)
株式会社バルステクノロジー 代表取締役社長
兼 株式会社KOSO アドバイザー
兼 日本木材青壮年団体連合会 広報委員会アドバイザー
兼 株式会社Revitalize アドバイザー
兼 株式会社Dione アドバイザー
東京科学大学(旧東京工業大学)基金特別会員
プラチナ構想ネットワーク 法人会員
先進EP研究会 会員
Asagiラボ 賛助会員
東海バイオコミュニティ 法人会員
林野庁 森ハブ・プラットフォーム会員
東京丸の内イノベーションプラットフォーム林業分科会
蔵前バイオエネルギー 正会員



木の未来を
つくる仲間へ
木材に関わる全国の若い経営者たちが集まり、交流・学び・活動を通じて業界の未来をつくっています。あなたも木青連の一員として、全国の仲間とともに木の可能性を広げてみませんか?

