2025.12.15

宮本義昭氏コラム

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第11回

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第11回

生産性向上~木質資源のエネルギー活用

はじめに

木質資源のエネルギー活用に関しては、端材、木皮、黒液、・・・などのボイラーによる熱利用や木質バイオマス発電、など既に活用されていると思います。

しかしながら、理論的なエネルギー効率で考えると燃焼を伴うボイラー活用や発電は極めてエネルギー効率が悪く、効率が良い木質資源のエネルギー活用技術を開発、社会実装していくべきだと考えます。

「燃焼」は有効エネルギーをロスする

我々が活用できるエネルギー、つまり、有効エネルギー(エクセルギー)は燃焼によって、一定量失われてしまいます。幾つかの損失発生経路があります。

①    木質資源は固体(端材、木皮)、または、液体(黒液)ですが、これを燃焼させると最終的には二酸化炭素と水蒸気といった気体になります。この時に体積膨張が発生しますから、大気圧×体積膨張分のエネルギーが失われます。(pΔV損失)

②    固体や液体の木質資源が二酸化炭素と水蒸気という気体となり、大気中に拡散していきます。この過程で乱雑さ(エントロピー)が増大することにより、エネルギーが失われます。(TΔS損失)。エントロピーというのは極めて難解な概念ですし、エントロピー増大によりエネルギーが損失するとは感覚的に理解が難しいです。しかし、逆のプロセスなら多少理解できるかもしれません。例えば、ボイラーの煙突から拡散していった二酸化炭素と水蒸気を改修してボイラーに戻すには相当量のエネルギーと使って回収しないと実現できません。エネルギーを加えて元に戻るなら、エネルギーを失って大気中に拡散していく、という概念が多少なりとも理解できるかもしれません。

③    熱利用も発電利用も煙突からある程度の熱エネルギーを持った気体が放出されていますから、これもエネルギー損失となります。

④    ①~③の議論は完全燃焼の場合のみ有効です。実際には燃料の一部は十分燃焼できず、熱エネルギーとして完全に利用されることのない中で煙突から不完全燃焼物質として捨てられてしまいます。これもエネルギー損失の源泉の1つとなります。

このように「燃焼」により、損失となるエネルギーは様々な経路で発生します。つまり、省エネルギーを実現するにはこの「燃焼」プロセスを如何に無くしていくか、という事が重要です。

よく「オール電化」という言葉を聞かれると思いますが、これは省エネの為に「燃焼」プロセスを無くして、ヒートポンプ技術を活用した給湯器であるエコキュート、直接食材中の水分子の振動エネルギーを高めることで加熱する電子レンジ、電磁誘導により直接鍋に渦電流を発生させて加熱するIHクッキングヒーター、など原理的にエネルギー損失は発生しません。

このように既に家庭では「燃焼」を伴わない技術が実装されています。今後は工場や事務所など企業や団体施設に「燃焼」プロセスを伴わない技術の導入が必要です。

例えば、日本の超大企業である日本製鉄やENEOSの工場でもエネルギー効率は70%代であり、多くは「燃焼」プロセスにより、エネルギー損失が発生していると思われます。

また、日本には自治体の運営する一般廃棄物の焼却施設や民間の産業廃棄物の焼却施設が3,000ヶ所あります。更に下水処理場も8,000ヶ所存在しており、多くの下水汚泥は焼却処理されています。こうした、施設の「燃焼」プロセスを排除することでエネルギー効率を上げる事が必要です。

エンジンやタービンなどの熱機関システムは有効エネルギーをロスする

エネルギー損失を伴う「燃焼」プロセスの排除よりも厄介なのが今まで日本の発展を支えてきたエンジンやタービンなどの熱機関システム活用に伴うエネルギー損失です。

これも非常に感覚的に理解が困難なのですが、簡易化する為にピストンを思い浮かべて下さい。ピストンは熱エネルギーを運動エネルギーに変換する代表的な熱機関システムの1つです。

ここでピストンを加熱してみましょう。加熱するとピストン内の気体が膨張し、ピストン運動の運動エネルギーに変換できます。しかしながら、無限に長いピストンを作ることは不可能ですので、今度はピストン内の気体を冷却により元に戻さないといけません。この過程で熱エネルギーがピストンという熱機関システムから失われるため、熱機関システムで活用できるエネルギーは(加えた熱エネルギー)-(除去した熱エネルギー)が最大となります。

この理屈は熱機関システムが開発されて産業革命が起きた後に、活用できるエネルギーには限界があるのではないかと、200年程前にフランスの物理学者であり、熱力学の父ともいわれるカルノーにより発見されました。そして、この限界はカルノーサイクル限界と言われています。

このように熱機関システムでも有効エネルギーが失われてしまいますから、熱機関システムは使わない方が良いのですが、代替となるシステムが無かったため、特に発電部門とモビリティー部門においては現状でも大量に使われています。前者は焼却施設発電、石炭火力発電、LNG火力発電、原子力発電、地熱発電、・・・、後者は自動車、鉄道、航空機などです。

例えばエネルギーコストが低い石炭火力発電は最新鋭の発電所でも最大発電効率43%程度が限界ですし、仕組みが似ている蒸気タービンを使った木質バイオマス汽力発電は10~30%程度となっています。ここで「最大」発電効率という言葉に注意が必要です。最大出力時に「最大」発電効率を実現できますが、出力を落とせば発電効率は下がります。(加えた熱エネルギー)-(除去した熱エネルギー)という数式を思い出してください。出力を落とすという事は加えた熱エネルギーが減るという事です。これはつまり、活用できるエネルギーが減少するということです。

これに対して昨今の新しい技術である燃料電池は「燃焼」も「熱機関システム」も無く、直接化学エネルギーを電気エネルギーに変換できますから、東京ガスが開発したSOFC燃料電池は発電効率65%です。熱機関システムではありませんから出力を落としても発電効率は下がりません。

また、ニッケル水素電池の技術を応用した燃料電池では常温稼働で84%もの発電効率を達成している製品も日本のスタートアップ企業で開発されています。

今後の木質資源のエネルギー活用の方向性

「燃焼」と「熱機関システム」はエネルギー損失が大きく、効率が悪い、では、木材産業において、どうすればよいか?という事に触れたいと思います。

①    オール電化

家庭と同様にエネルギー効率が良いオール電化をめざすべきです。

②    太陽光発電の最大限の活用

既に条件が揃えば蓄電池とセットでも太陽光発電は最安の電力製造方法です。コストも手間もかかる木質バイオマス発電よりも良い選択肢でしょう。建物の屋根、壁、駐車場や空地、急傾斜地のような未利用土地活用により、太陽光発電の最大限の活用を行っていくべきでしょう。

駐車場や空地、急傾斜地には既設の電柱や支柱、新たに設置する支柱の間に架線を張って、架線に垂直に太陽光フィルム(ペロブスカイト、カルコパーライト太陽電池)を設置することで工事費、工事期間を大幅に短縮することが可能ですし、超ハイパワーフローティング電池を活用し通常の電気回路では回収不能であった急激な太陽光発電電力変動を吸収することで再エネ発電効率を上げることも可能です。

③    化学工業との連携

木質資源などの有機物は高温にさらされると分解し、1000℃以上になれば水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気に分解(ガス化)します。水素と一酸化炭素からSAF(持続可能なジェット燃料)、水素と二酸化炭素からメタノール、パラキシレン(PET原料)、などの基幹基礎化学品の合成が可能です。

また、こうした化学物質の合成では高温の発熱反応を伴います。発生した熱を製材業であれば製材品の乾燥に、合板業であれば接着剤乾燥や製品乾燥に、製紙業であれば蒸解や製品乾燥に活用できます。

木質資源などの有機物のガス化は吸熱反応、メタノールやSAFの合成は発熱反応、この発熱反応と吸熱反応をうまく活用することをコプロダクションといいます。

よくガス化では部分燃焼方式が使われます。部分燃焼方式とは投入する木質資源などの有機物の一部を燃焼させて高温を得て有機物のガス化をおこなうというものです。しかしこれは最初の議論である効率を悪化させる「燃焼」を伴う、投入する有機物を乾燥させる工程が必要、などデメリットが大きいです。それよりもメタノールやSAF合成の発熱を使って有機物を低温熱分解、SOFCなどの燃料電池を使った中温ガス化&熱分解、電気ヒーターや電磁誘導を活用した高温ガス化により、発生する熱エネルギーを使い倒すことが重要でしょう。

具体的な打ち手

①    オール電化に関しては企業の工場も含めて様々なソリューションが既に存在します。詳しくは一般社団法人日本エレクトロヒートセンター(JEHC)のホームページが参考になりますので関心のある方はアクセスしてみて下さい。

ホームページ→トップページ | 日本エレクトロヒートセンター

②    太陽光発電の最大限の活用に関しては、ペロブスカイト太陽電池、カルコパーライト太陽電池の開発と施工方法が開発中です。2030年までには製品化されると思います。太陽光発電とセットで考えないといけない蓄電池に関しては日本ガイシのNAS電池の撤退、リチウムイオン電池の火災など導入にためらいを感じる人が多いでしょう。

私が応援しているスタートアップ企業では超ハイパワーフローティング電池(kW単価世界最安)、リバーシブル燃料電池(20MPa以下の安価な水素ガスフォルダーと量が多ければkWh単価世界最安)を開発しています。前者は既に製品化済みでサンプル出荷中です。後者は開発中ですが、既に電気→水素、つまり、水電解効率は常温で102%、70℃で117%という世界で他に無い高い効率が達成できています。更に水素→電気、つまり、燃料電池発電効率は常温で84%を達成しています。2030年までに何とか実現できないか私も含め協力者、企業、出資企業を探しています。

③    化学工業との連携

既にTREホールディングスと三菱ガス化学が木質資源と廃棄物からメタノール合成を行う事で連携されました。記事→国内初となる、木質バイオマスおよび廃棄物由来の グリーンメタノール製造・販売に向けた事業化検証に関する覚書を締結 | 当社について | 三菱ガス化学株式会社

ただし、ガス化方法が部分燃焼方式を採用していますし、コストの問題もあり、中長期的なR&Dテーマを私からも提案中です。コストの問題は如何に逆有償が期待できる廃棄物の活用、木質資源に関してもカスケード利用が前提であり、林地残材やA~C材の端材活用により原料コストをかけないことが重要となります。前回のコラムで取り上げた林地残材も含めた集材、運搬、仕分け、検尺の徹底的な林業や木材産業の効率化が必要ですし、以前も取り上げた超短伐期のユーカリの活用も重要でしょう。更に重要なのは日本中に木材と廃棄物のコンビナートを数千ヶ所作る事です。工場が集約すれば、水や熱、木質バイオマスのカスケード利用によって効率化、横持コスト削減、各工場の廃棄物のモレの無い最大限の活用などが期待できます。

このように日本政府も蓄電池系の2つの技術(超ハイパワーフローティング電池とリバーシブル燃料電池)、化学産業と木材産業と廃棄物産業の連携に投資や支援、重点施策化をはかっていくことが重要です。

日本の産業構造の転換と強化、貿易収支改善、エネルギー安全保障、地方創生、・・・など多くの日本の課題解決につながります。

最後に

今回は木質資源のエネルギー活用に関して掲載しました。前段難しい内容がありましたが、エネルギーの基本原理を知ることは極めて重要です。アカデミックの観点では熱力学、電気化学、有機化学の領域であり、関心のある方は勉強されることをお薦めします。

エネルギーの産業構造転換には既得権、前例主義が大きな足枷になっていると感じます。折角良い技術で日本は先行しているのに気が付くと中国や、韓国、台湾、などの国に負けているのが日本の残念な現状です。

元々太陽光発電もリチウムイオン電池でも日本は世界を席巻していました。ところが産業政策の不在、既得権産業の過剰な保護、再生可能エネルギー政策の遅れ、・・・など日本政府を批判したいネタはたくさんあります。

ペロブスカイト太陽電池、カルコパーライト太陽電池、超ハイパワーフローティング電池、リバーシブル燃料電池、化学産業連携という新しい技術も日本にはあり、現時点では優位性があります。太陽光発電やリチウムイオン電池と同じ轍を踏まないよう願うと共に協力者を多く募って、日本政府や企業へ提案していきたいと思います。

以上、ご関心あれば下記までご連絡下さい。

宮本義昭:メールアドレス:ym00876216@gmail.com

(過去のコラム)
第一回:人手不足対策、地域の空き家問題対策、リフォーム事業拡大
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第1回 – 日本木材青壮年団体連合会
・海外人材紹介と定着サービス:フューチャーデザインラボ社のご紹介

第二回:少子化問題と木材産業の成長
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第2回 – 日本木材青壮年団体連合会
・中堅中小企業の売上利益拡大を支援:Revitalize社のご紹介

第三回:リプレイス大作戦その1~石炭の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第3回 – 日本木材青壮年団体連合会
・林業コンサルティング会社:KOSO社のご紹介

第四回:リプレイス大作戦その2~外材の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第4回 – 日本木材青壮年団体連合会

第五回:リプレイス大作戦その3~天然ガスと石油の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第5回 – 日本木材青壮年団体連合会

第六回:リプレイス大作戦その4~外材、化石燃料以外の代替
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第6回 – 日本木材青壮年団体連合会 

第七回:生産性向上~林業 育林コストの大幅な削減
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第7回 – 日本木材青壮年団体連合会

第八回:生産性向上~林業 森林所有権の集約
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第8回 – 日本木材青壮年団体連合会

第九回:生産性向上~林業 10年後のあるべき森林管理をめざして 
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第9回 – 日本木材青壮年団体連合会

 第十回:生産性向上~林業 10年後の素材生産
【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第10回 – 日本木材青壮年団体連合会

(所属企業、団体)
株式会社バルステクノロジー 代表取締役社長
兼 株式会社KOSO アドバイザー
兼 日本木材青壮年団体連合会 広報委員会アドバイザー
兼 株式会社Revitalize アドバイザー
兼 株式会社Dione アドバイザー
東京科学大学(旧東京工業大学)基金特別会員
プラチナ構想ネットワーク 法人会員
先進EP研究会 会員
Asagiラボ 賛助会員
東海バイオコミュニティ 法人会員
林野庁 森ハブ・プラットフォーム会員
東京丸の内イノベーションプラットフォーム林業分科会
蔵前バイオエネルギー 正会員

(拙著:代表作)
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