「勘」と「紙」から抜け出す。
木材業界のリアルな悩みに、AIはどこまで使えるのか?
見積りは、先代が残したExcelと「勘」。在庫は、担当者の頭の中。注文は、FAXやLINEを見ながら手書き――。
2026年9月5日、日本木材青壮年団体連合会 木材活用委員会による「木材活用未来会議2.0」が開催されました。
今回のテーマは、「木材産業の未来を、AIと共に創る。」
昨年度のDX未来会議が事例紹介だったのに対し、今回はさらに一歩踏み込み、「自分たちの会社の仕事にAIをどう使うのか?」を、実際の業務を題材に考える実践型のセミナーとなりました。
木材業界の“あるある”を、そのまま持ち込む
今回登場したのは、素材生産・製材・加工・流通と、川上から川下までの4名の会員。きれいに整理された成功事例ではなく、出てきたのは「今、本当に困っている仕事」でした。
例えば製材の現場では、営業担当者が受注内容を生産指示書へ記入。外出中には急な注文へ対応できず、営業時間後にLINEで入った注文を翌日忘れてしまい、積み込み漏れが起きることもあります。
さらに在庫も「何が、どこに、何ケースあるのか」を担当者の頭の中で管理。営業・手配・段取りが一人に集中する属人化が、大きな課題として挙げられました。
見積りも、加工方法も、「あの人しか分からない」
加工の現場では、受注生産品が95%以上を占め、特注品の設計や加工方法が担当者の記憶頼みになっているという悩みが紹介されました。
時間が経って追加注文が入ると、「前回、どうやって作ったっけ?」。過去の形状や加工方法、単価をすぐに追えず、同じ製品でも担当者によって判断が変わってしまうことがあります。
4社の悩み。実は原因は同じだった。
4名の相談を聞いた講師の向井氏は、木材業界の課題を大きく2つに整理しました。
課題の本質は2つ
- 情報が「人の頭」と「紙」の中にある。
- 同じ情報を何度も書き写している。
LINEで注文を受ける。紙に書く。Excelに入力する。別の台帳にも入力する。「在庫が分からない」「発注を忘れる」「連絡が漏れる」「見積りに時間がかかる」。それぞれ別の問題に見えて、その根っこには「情報が一気通貫でつながっていない」という共通点がありました。
では、AIに何をさせるのか?
ここからが今回のセミナーの面白いところです。向井氏が見せたのは、壮大なシステムではありません。
例えば、LINEで届いた注文文章をAIへ渡し、「あなたは製材所の受注担当です」と役割を与え、積込日・得意先・品名・樹種・寸法・数量・行先・備考など必要な項目を指定します。
さらに、書かれていないことは勝手に推測しない。事故につながる可能性がある項目だけ確認事項として出す。というルールを与えます。
するとAIは、注文内容を生産指示書の形に整理し、不足している情報まで指摘しました。
つまりAI導入とは、いきなり会社の仕事を全部機械に任せることではありません。これまでベテラン社員や経営者の頭の中にしかなかった、「こういう時はこう判断する」という仕事のルールを、まず言葉にする。そこから始められるのです。
紙は捨てなくていい。
セミナーでは、手書きの指示書をスマートフォンで撮影し、その画像をAIに読み込ませる実演も行われました。斜めから撮影した書類でも内容を読み取り、表形式に整理。空欄を勝手に埋めず、記入位置のズレまで指摘しました。
長年使ってきた紙の帳票、過去の見積書、加工図面、ベテラン社員が持っている経験。それらをすべて捨てて、新しいシステムに入れ替える必要はありません。
むしろ、今まで会社に蓄積してきたものを「AIが使える情報」に変えていく。それが今回示されたDXの考え方でした。
「AI導入=何百万円」ではない
DXと聞くと「システム会社に頼まないと無理」「何百万円、何千万円もかかる」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし今回紹介された方法の多くは、現在使っているAIサービスやExcel、Google Driveなどを組み合わせることで始められるもの。長い指示文も毎回入力する必要はなく、一度作ったルールを保存して繰り返し使用できます。
閉会挨拶では田中俊輔委員長からも、「初期投資0円から始められる」と会員へ呼びかけがありました。
AIができないことが、木材業界の強みになる。
AIが進化すれば、見積り、受発注、在庫管理、書類作成など、多くのデスクワークは今後さらに効率化されていくでしょう。
では、木材業界の価値までAIに奪われるのでしょうか。会議では、むしろ逆の視点が示されました。
何十年もの時間をかけて山で育った木。一本一本違う木目や色、香り。それを見極め、製材し、加工し、建物や暮らしへ届けていく。これはAIが生成できるものではありません。
AIに任せられる仕事はAIへ。人にしかできない仕事は、もっと人へ。
見積りは勘。在庫は記憶。注文書は手書き。そんな木材業界に残る仕事のやり方を、すべて否定する必要はありません。ただ、その中にある経験や判断を「会社の資産」として残すために、AIを使ってみる。
今回の「木材活用未来会議2.0」は、木材業界のDXは、大きなシステム導入からではなく、目の前の小さな困りごとから始められる。そんなことを実感できる90分となりました。
この記事のポイント
- 素材生産・製材・加工・流通、4つの現場のリアルな悩みを紹介
- AIでどこまで業務を効率化できるのか、実演を交えて検証
- 紙の書類も、AIに渡せば「使えるデータ」に変えられる
- 大規模投資ではなく、身近な業務からAI活用を始められる
- AIにできない「木材の情緒」こそ、木材業界の強み
株式会社データ・ファー・イースト(DFE)
代表取締役 向井 隆昭 氏
企業のAI導入やAIネイティブ化への変革支援に取り組む。今回のセミナーでは、木材業界の現場から挙がった課題をもとに、AIを活用した具体的な改善方法を実演・解説いただきました。
本記事は、2026年9月5日開催「木材活用未来会議2.0」の会議資料・会議録およびセミナー動画をもとに構成しています。




